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Jesse Winchester / Love Filling Station

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ジェシ・ウィンチェスター。ルイジアナ出身のシンガー・ソング・ライター。1970年に出した「ジェシ・ウィンチェスター」という自分の名前をそのままタイトルにしたファースト・アルバムが有名だ。

このアルバム、ザ・バンドのロビー・ロバートソンがプロデュースしたほか、エンジニアやバック・ミュージシャンにかなり豪華なメンバーが起用されて作られているのだけど、いただけないのがジャケット写真。せっかくのファーストアルバム、もっと晴れ晴れしい写真はないのかと思うのだけど、使われているのは深い憂いに満ちた荒くれもの顔のモノクロ写真。

彼は、音楽活動を本格化させようとしていた22歳の時、当時アメリカが戦っていたベトナム戦争への徴兵令状を受け取った。でも、その徴兵を逃れるためにカナダに移住している。アメリカへ戻れば徴兵回避で逮捕されてしまう身、カナダで曲書き、コーヒーハウスで歌っていたところをロビー・ロバートソンに見いだされた。そんな過去を持ったアーチストを売りだすにあたり、憂いを出さないわけにいかなかったのかも知れない。

発売当初のレコード・アルバムはわからないが、僕が持っているCDは2006年に作られたアメリカ盤。2つ折り4ページのブックレットが入っていて、すべてのページがこの憂い顔写真。どれだけこの写真が好きなんだ?と嘆きたくなるようなあしらいなのだ。

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 と、古いアルバムへの不満はそのくらいにして、今回取り上げたアルバムの話に移る。

今回のアルバム「Love Filling Station」は2009年の発表、上述のファーストアルバムから約40年弱が経過。1976年のカーター大統領による恩赦措置によって徴兵忌避兵の扱いが解け2002年に帰国してから7年経ってのアルバムだ。古いガソリンスタンドの写真に「Love Filling Station」のタイトル。直訳すれば「愛を注入するスタンド」。なんともロマンチックなタイトルだ。

ジェシは、あの憂いな表情と荒くれもの風の顔つきに似合わず、実はもともと声はやさしく、かなり繊細な曲も書いていた。でも、このアルバムで聴ける彼の声、彼の音楽はレベルが違う。人生の波乱を乗り切って、ようやく故郷に戻り好きな音楽を存分に楽しむことができている喜びと、心の余裕にあふれてる感じがする。

何より、声がおだやか。年齢を重ねて角が取れたということもあるだろうけど、それ以上に心のありようが変わってるように聴こえる。曲はカントリーだったり、アーリー・アメリカン風やアコースティック・スイング風など、いずれも少ない楽器で素朴に作っている。オリジナル曲に混ざり、あのベン・E・キングの「スタンド・バイ・ミー」のカバーが入っていたり、何ごとにもとらわれず自由闊達に、ベテランの余裕を見せている。

僕がこのアルバムを知るきっかけになった曲「Sham-a-ling-dong-ding」、ジェシがしっぽりと歌っている映像を紹介しておきます。タイトルの言葉は、「♪シャームァ、リンドンディン♪」という感じで、特に何か特定したものではない歌の一節を表してる言い方だと思う。若い頃に純粋で熱い恋をしたときにかかってたあの曲、大人になってみんな忘れてしまうけど、今でも目を閉じて思い出せば、その曲と純粋な思いは戻ってくるんだよ、っていうそんな感じの歌だ。


Sham-A-Ling-Dong-Ding - Jesse Winchester on Elvis Costello's "Spectacle"

まさに「Love Filling Station」。聴いているとLoveが心に注ぎ込まれてくる。他にも、そんな曲が満載のアルバムだ。